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変化の源泉

サラリーマンとしてスタートした藤田が、日本経済の失われた10年を増収増益で乗りきり、なぜ13期も連続で増配が続けられたのか。それは社員が毎日経営トップ宛てに、三行(127文字)で提案・報告をする「三行提報」という仕組みがあったからだと藤田は言います。社員ひとりひとりとの対話によって物事をありのままに見ることができ、小さな変化、それに続く大きな変化を主導できたのです。

社長就任への決断

実父は従業員15人ほどの小さな商事会社を営んでいましたが、「社長業は割にあわない、人を使うのはこうも骨の折れるものか」と常々愚痴をこぼしていました。「お前、社長だけはやるなよ」と忠告もしてくれ、大学を卒業する時、私がサラリーマンになりたいと言ったら、二つ返事で賛成してくれました。日本航空で約10年働いた後、義父・佐藤陽が創業したサトーへ入社。しかし、その義父が急病で倒れたことがきっかけとなり、実父との約束を破って社長になってしまいました。私がサトーに入社してから5年目のことです。社長をやっても何とかなるのではないか、という気持ちになったのは、三行提報という社内制度が存在していたことが大きな要因でした。

経営者を育てる仕組み

私はCEOになって、社員と三行提報のやり取りをすることで創造的判断力を養ってきました。三行提報はトップ(リーダー)を育てるシステムではないかと思っています。儲かればいいやとか、売上が増えればいいやという基準だけでなく、その判断は社会的価値に見合うかどうかの判断力も、社員が現場で耳にした情報や知識をもとに養ってきました。社員ひとりひとりの声に耳を傾け、すべきことをひるまずに実行していく。その反復の中から企業全体をとりまく環境の変化をつかみ直しては、成長への軌道を模索していくのです。

まずは三行提報に応えていこう

バブルが崩壊した時は、サトーは店頭から二部に行こうとしていた時で、業績が二期連続減益となり、二部上場をあきらめるムードになっていました。社長になった最初の1年だけがよくて、そのあと2年間が会社として初めての減益を経験したので「どうしようか」という感じでした。いろいろな経営者や先達を見ていても倒産しているし、世の中で良いとされてきたことが、何もかも信じられなくなっていました。

その時に頼るものがないので、「取りあえず毎日社員から三行あがってくるので、これに応えていこう」と。何か会社を動かさなければいけないと思った時に三行にすがりついてアクションをしていきました。ただ、いま考えると「何をやってきたのか?」と言われると変化を起こしてきただけで、成功するもしないもアイデアはたいしたことがありません。三行からヒントを得て日々小さな変化を起こして来たに過ぎません。

社会的な価値を生むヒント

三行提報があれば、トップは現場の個の動きを全体的な視野で捉えて、社会的価値に置き換えることができます。例えば、「人員が足りない」という問題をマネジメントレベルで対処すると「予算の関係で人員は増やせない」となりますが、 トップはそれを社会的価値を生み出すために価値のあるものと判断すれば、むしろ積極的に人員や資源を投入しようとできるのです。「個と全体の統合」がこのシステムの強みなのです。

誰でも経営者になれる

どんどんあがってくる提案に対して「これはやろう」とか「これはやめよう」とか言えば、変化を起こすことはできます。優秀な経営者というのは、属人的なものでは決してなく、誰でもなれる可能性を持っています。その人が優秀だからということではなく、社員の意見に耳を傾ける姿勢と変化を起こす勇気があれば、一介のサラリーマンでも優秀な経営者になることができるのです。

毎日のように社員から上がってくる報告に目を通すことは、そう簡単なことではありません。朝晩の歯磨きのように習慣にしていた藤田は、「出張などで目を通せない日は忘れ物をしたように何だか落ち着かなかった」と言っています。二期連続で減益を経験した時も、社員ひとりひとりから上がってくる声が藤田の心の拠りどころとなりました。

三行提報のはじまり

三行提報の取り組みは、1976年、労働争議がきっかけとなり、誕生しました。創業者の佐藤陽は、戦後の焼け野原から立ち上がり、生きていくために起業し、その家族と社員を路頭に迷わせたくない一心で寝食を忘れて社業に邁進してきました。しかし、その佐藤陽の想いとは裏腹に、社員と労働争議になったことで、「なぜこのように批判されるのか」「会社は誰のものか」「何のためにあるのか」「いっそのこと潰してしまって自分ひとりでやりなおした方がいいのではないか」と真剣に悩んだと言います。その後、組合闘争が終結し、佐藤陽は、「全社員がいつでも経営者に物申すことができるなら、そもそも労働組合など必要ないのではないか」と思い至り、二度と争議が起こらないよう、毎日社員から直接意見を吸い上げるために日報をスタートしました。このようにして三行提報の取り組みは日報の形で始まり、改変を重ね、今日まで30年以上に渡り続けられています。

藤田東久夫著書 たった三行で会社は変わる

トップ実践の経営学藤田東久夫の軌跡経営を支えた言葉変化の源泉

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